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判決文 1審


平成26年2月24日宣告 裁判所書記官 高橋久美子
平成25年(ろ)第9号

判決

 本籍 前橋市下細井町635番地15
住居 同上
無職
松 浦 紀 之
昭和35年3月25日生

上記の者に対する旅行業法違反被告事件について、当裁判所は、検察官
北村祐介、国選弁護人原田英明各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を罰金30万円に処する。
その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。

理由
【 罪となるべき事実 】
被告人は、旅行業を営む株式会社はらぼじ観光の代表取締役として、そ
の業務全般を統括する者であるが、同社の業務に関し、観光庁長官又は
群馬県知事の行う登録を受けないで、報酬を得て、尾瀬観光開発株式会
社(代表取締役星野寛)が経営する尾瀬岩鞍リゾートホテルのため

 1 平成23年4月27日頃、前橋市三俣町三丁目31番地15木暮東
洋ビル2階所在の前記はらぼじ観光本社営業所において、前記尾瀬岩鞍
リゾートホテルに対し、前記はらぼじ観光が集客した高橋正一らの宿泊
予約をするなどし、同ホテルが、旅行者である前記高橋ほか27名との
間で、宿泊のサービスを提供するための宿泊契約を締結するのを媒介し 

2 同8月20日頃、前記はらぼじ観光本社営業所において、前記尾瀬
岩鞍リゾートホテルに対し、前記はらぼじ観光が集客した狩野仁一らの
宿泊予約をするなどし、同ホテルが、旅行者である前記狩野ほか33名
との間で、宿泊のサービスを提供するための宿泊契約を締結するのを媒
介しもって、無登録で旅行業を営んだものである。

【 証拠の標目 】括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検
察官証拠の番号を示す。判示事実全部について ・被告人の公判供述・被
告人の警察官調書6通(乙1~6)・星野松江の警察官調書2通(甲8
(ただし、不同意部分を除く。)、9)・星野寛の警察官調書(甲11)
・吉野勝行の警察官調書(甲12(ただし、不同意部分を除く。))・
「契約書の写しの作成について」と題する書面(甲13)・「送客手数
料の入金の確認について」と題する書面(甲22)・「ホテル、ドライ
ブイン等からの送客手数料入金金額一覧表の作成について」と題する書
面(甲25)・履歴事項全部証明書(甲29)・捜査関係事項照会書謄
本(甲30)及び「捜査関係事項照会書(回答)について」と題する書
面(甲31)・捜査関係事項照会書謄本(甲32)及び「捜査関係事項
照会書に対する回答について」と題する書面(甲33)・捜査関係事項
照会書謄本(甲34)及び「捜査関係事項照会書に対する回答について」
と題する書面(甲35)判示1の事実について・「申込受書の領置につ
いて」と題する書面(甲14)・「新規予約書等の領置について」と題
する書面(甲15)・「御宿泊カード等の領置について」と題する書面
(甲16)・「リベート計算書等の領置について」と題する書面(甲17)
 判示2の事実について・狩野仁一の警察官調書(甲4、5)・「予約確
認書等の領置について」と題する書面(甲6)・「領収書の領置について」
と題する書面(甲7)・「申込受書の領置について」と題する書面(甲18)
・「新規予約書等の領置について」と題する書面(甲19)・「御宿泊カー
ド等の領置について」と題する書面(甲20)・「リベート計算書等の領置
について」と題する書面(甲21)

【法令の適用】被告人の判示所為は包括して旅行業法29条1号、3条、
33条、同法施行令5条1項に該当する者ので、その所定金額の範囲内
で被告人を罰金30万円に処し、その罰金を完納することができないと
きは、刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労
役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法181条1項
ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

【被告人及び弁護人の主張に対する判断】

1 被告人及び弁護人は、被告人自身が株式会社はらぼじ観光(以下「は
らぼじ観光」という。)の代表取締役として行った本件判示行為自体は認
めるものの、旅行業法にいう「報酬」は得ていないから同法違反には該当
しない旨を主張する。
すなわち、同法3条及び2条が、登録業者以外の者が報酬を得て、宿泊契
約締結の媒介等を行うことを禁じているのは、旅行業者が債務を履行しな
い場合に旅行者が経済的不利益を受けることを防止するためであるから、
同法2条にいう「報酬」とは、旅行終了後に旅行者以外のホテル等から支
払われる金額は含まれないというべきであり、本件で被告人が受領した金
銭は、旅行者ではない岩鞍リゾートホテルから旅行者の旅行終了後に支払
われているのであるから、被告人は、旅行業法にいう「報酬」を受けたと
はいえないというのである。

ところで、旅行業法2条は、「この法律で『旅行業』とは、報酬を得て、
次ぎに挙げる行為を行う事業(括弧内省略)をいう。」と規定し(同条
1項本文)、その事業として、同条1項4号には、「運送等サービスを
提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について。、
代理して契約を締結し、又は媒介をする行為」が掲げられているところ、
同号の「運送等サービス」とは、「旅行者が提供を受けることができる
運送又は宿泊のサービス」のことをいうとされている(同項1号)から、
本件では、報酬を得て、岩鞍リゾートホテルのため、旅行者である
(1)高橋正一ほか27名及び(2)狩野仁一ほか33名の各団体に対
する宿泊サービスの提供について、同ホテルと旅行者との間で宿泊契約
を締結するのを媒介する行為を行う事業が同法でいう旅行業に該当する
ということになる。
そして、旅行業法2条1項本文の「報酬を得て」とは、同項各号に揚げ
る行為を行うことによる対価を得て、という意味であると解されるところ、
前掲関係各証拠によれば、被告人は、はらぼじ観光の業務に関し、尾瀬
岩鞍リゾートホテルとの間で、あらかじめ、一定の客を紹介すれば、
同ホテルがはらぼじ観光に対し、宿泊客の基本宿泊料の13パーセント
を支払う(契約書では「送客手数料」又は「手数料」とされ、被告人は
「広告手数料」であるとする。)旨の契約を締結した上で(以下「基本
契約」という。)かかる基本契約に基づき、同ホテルのため、同ホテル
に対し、はらぼじ観光が集客した
(1)高橋正一ほか27名及び(2)狩野仁一ほか33名の各団体の宿
泊予約をするなどし、同旅行者に対する宿泊サービスの提供について、
同ホテルと旅行者との間で宿泊契約締結するのを媒介し、その結果、
前記各団体については2万9120円,(2)の団体については3万5
360円)を受領したことが認められる。かかる事実関係のもとで、
宿泊サービスの提供について、同ホテルと旅行者との間で宿泊契約を締
結するのを媒介する行為と被告人が受領した前記各金額との間には対価
関係があると認められることはqきらかであり、対価関係が認められる
以上、契約書上の「送客手数料」又は「手数料」なる文言や被告人のい
う「広告手数料」なる呼称にかかわらず、被告人の受領した前記金額が
同法にいう「報酬」に該当することは明白である。
被告人及び弁護人の前記主張は、独自の見解であって採用できない。
なお、被告人及び弁護人は、「集客」はしていないので旅行業には該当
しない旨主張するが、同法において、旅行業とされるためには「集客」
行為は要件とされているわけではなく、この点で失当であるというべき
であるが、「集客」は文字どおり「客を集めること」を意味するものと
解されるところ、前掲関係各証拠によれば、はらぼじ観光においては、
老人会などに対し、事前に、はらぼじ観光の作成した「のんびり温泉、
ホテルのバスが無料送迎するお得な旅行プラン」などと題したチラシ
をダイレクトメールなどで配布していることが認められ、これが集客
行為に該当することは明らかであり、被告人及び弁護人の主張は、
到底採用することができない。 

2 被告人及び弁護人は、旅行業を営むための登録が必要となると憲法
が保障する職業選択の自由から導かれる営業行為の自由の侵害となるか
ら、旅行業法3条、2条、29条1号、33条は憲法22条の1項に違
反して無効である、また、被告人のように旅行業をしている者は少なく
なく、被告人のみを狙い撃ちして公訴提起をし、同法の規定を被告人に
適応することは憲法14条1項に違反すると主張する。 

(1)  憲法22条1項違反であるという主張について憲法22条1項
は、公共の福祉に反しない限りにおいて、職業選択の自由を認めている
ものであることは同条項の明示するところである。ところで、旅行業法
3条は、旅行業又は旅行業者代理業を営もうとする者は、観光庁長官の
行う登録を受けなければならないと定め、同法2条1項に定める旅行業
を営もうとする者に対し、登録を義務づけているものであることは、
その規定自体に照らして明らかである。そして同法がかような登録制度
をとっているのは、同法の目的が、旅行業等を営む者について登録制度
を実施し、あわせて旅行業等を営む者の適正な運営を確保するとともに、
その組織する団体の適正な活動を促進することにより、旅行業務に関す
る取引の公正の維持、旅行の安全の確保及び利便の増進を図ることにあ
る(同法1条)からであり、その目的のためには、一定の不適格者を事
前に旅行業者から排除し、無登録者が不当な利益を目的として旅行者と
運送等サービス提供者との間に介入する行為等を防止する必要性が高く、
それゆえに同法29条もその行為を刑事罰をもって抑止するために設け
られたものと解される。しかも、同法において規定されている登録制度
は、観光庁長官において、同法4条に規定されている申請があった場合
には、同法6条に規定されている一定の拒否事由がある場合を除き、登
録をしなければならない(同法5条)のであり、その登録に当たっての
裁量を認めていない。そして、同法6条に規定されている除外事由につ
いても、旅行業の登録を取り消され、その取り消しの日から5年を経過
していない者、一定の刑罰を受けた者、5年以内に旅行業に関し不正な
行為をした者、業務の範囲の別ごとに国土交通省令で定める基準に適合
する財産的基礎を有しないものなどに限定しており、同法1条に定める
目的実現のために必要最小限の規制にとどめているものと認められる。
以上のような本件登録制度の目的、必要性、登録要件等に鑑みると、旅
行業法3条は、公共の利益のために必要かつ合理的な措置を定めたもの
といい得るものであり、著しく不合理であることが明白な規制措置であ
るとはいえないから、公共の福祉の要請に適い、憲法22条1項に違反
するとはいえない。旅行業法2条、29条1号、33条もまた同様である。
被告人及び弁護人の前記主張は採用できない。 

(2)  憲法14条違反であるという主張について被告人及び弁護人は、
被告人のように旅行業法上の登録を得ずに旅行業をしているものは少な
くなく、本件は、被告人のみを狙い撃ちした公訴提起であると主張する
が、被告人以外にも無登録で旅行業を営んでいる業者が存在するかどう
かについては個別的具体的にその業者の事実内容等が同法上の旅行業に
該当するかどうか吟味することが必要不可欠であるところ、被告人及び
弁護人の主張にはこれらについて何ら具体的な言及がないから、この点
において主張自体失当というほかないが、仮に、そのような業者が存在
していたからといって、被告人自身の行為の違法性がなくなるわけでは
ない。また、取り調べ済みの関係各証拠によれば、本件は、群馬県産業
経済部観光局観光物産課や社団法人全国旅行業協会から、再三にわたり
違法行為を指摘されながら、行政指導や警告を一切受け付けず、業務を
改善しなかった被告人に対し、前記全国旅行業協会が旅行業法違反を理
由に刑事告発するに至って本格的な捜査が開始されたものであることが
認められるから、これが被告人を狙い撃ちにしたものであるとか
憲法14条に違反するものであるということはできない。被告人及び弁
護人の前記主張は採用できない。 

【求刑・罰金30万円】
平成26年2月24日前橋簡易裁判所裁判官   高 野  芳 久
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